花束
雷震子たちが修行の手合わせをしていると、太公望とスープーが通り(飛び?)かかりました。 西の地のスープー谷では、今日は父の日なんだそうです。 スープー谷に興味を持った、雷震子、ナタク、天化もついていくことに。 到着したスープーは、あいさつをすませるとスープーママからハサミを受け取って、庭に出ました。出ると花を摘み始めました。庭には、一面に黄色い花が美しく咲き誇っています。 スープーが、西の地では黄色い薔薇を贈る風習があって、パパに贈るんだと笑顔で答えます。 スープーママが、せっかくだから皆さんもどうぞ、と薔薇摘みを勧めてくれました。 ちょっと戸惑いつつも、一行は花を摘み始めました。 「母上に渡すんだ。勘違いするな」 「何も聞いてねえよ。親父んとこ寄ってくとすっか」 「うむ、わしもそうしようかのう。」 「俺っちも久しぶりに親父の顔、見たくなったさ。あとコーチにも持ってくか」 「師匠、なぁ…」 みんなは各々の場所に散っていきました。 大きな花束を抱えて、雷震子はお父さんに会いにいきました。 お墓参りのあと… 「わりぃ親父、この花、ちょっとだけ、分けてくれよな」 花束をほどいて、少し花を抜き取り、元通り結び直すと、南の空に飛んで行きました。 洞府側の岩の上に、探していた人物がいました。 だけどなかなか言えなくて… 「ああ雷震子、おかえり。」 「…おう。」 「昼食は?」 「ああ。食ってきた。おめーは?」 「私は、この調べものが終わったら食べるつもり。」「ふぅん…。…」 「…で、雷震子、さっきから後ろに隠しているものはなんだい?」 「べっ…!別になんも、か、隠してるわけじゃねえし!」 「ふぅん。その花、素手で持ってると痛くない?」 「そーなんだよ。包むものがなくて仕方なく…ってなっ!何で花だってわかんだよ!こっち見てもねぇくせに!」 「君の羽ばたく風に乗って、色々と舞い飛んでくるものでねぇ。生物学者の私にとって、分析はたやすいよ。この葉、この香り、そしてこの黄色い花びら…西方に咲く、薔薇という花だね。」 「おう。さすがだな。スープーの野郎がたしか、んな名前って言ってたぜ」 「それを私に?」 「…っ、おう。」 「それはどうも。珍しい花だから、研究用に摘んできてくれたのかい?トゲを着けて自身を守るとは、興味深い進化を遂げた花だよねぇ」 「そうじゃなくてよ、えっと…き、今日はそれ、渡す日なんだってよっ」 「今日?ああそうか、今日は―…」 「わーっ!わーっ!それ以上言うなっ!…かっ、勘違いすんなよ!親父に渡してきた残りだかんな!」 「…っ、わりぃ、ごほん。俺こう言うの、スゲー苦手でー…。 今日は、父の日でよぉ、おめーを親父、なんて思ったことねぇけど、育ててもらっ…いや、家出したからほとんど俺様が自分で育ったんだけど…世話んなってる…のか実験台かよくわかんねぇけどっ。 ちょっとは世話んなってるの事実だし、その…ありがとよ」 やっぱ俺様にゃこういうの無理だ、とそっぽを向いた雷震子の顔はまっかっか。 雲中子はそんな雷震子と、花束を見て、優しい顔で微笑んでいました。 「さあ中にお入り。指の手当てをしなきゃ」 「ん。」 「わざわざスープー谷までご苦労なこったねぇ。」 「うるせぇ。」 「あの花、実験に使っちゃだめだかんな」 「えー少しだけいいだろう?」 「だーめー」 「3本だけ!」 「どーすっかなぁ」 にこにこ顔の二人は洞府に帰っていきました。 おしまい。 〜後日談〜 「雲中子〜!」 「やあ太乙」 「ねぇねぇ、急ぎでつくってほしい薬があるんだけど、花をー…」 「花を長持ちさせるやつね。それならそこの机の上の薬だよ。一年くらいは持つよ。」 「ありがとう!でもどうしてわかったのさ」 「さっき道徳が、同じ薬求めて来たからねぇ。」 「道徳が?珍しいこともあるもんだねぇ。…それより聞いてよ!ナタクが、あのナタクが、私に西の国の花を持ってきてくれてさー!」 「弟子自慢もさっき聞いたよ。延々と」 「まあそんなこと言わずさー、それにしてももう薬が出来てるなんて手際良いね。いつもなら少し時間取るのに」 「さあ、なんでだろうねぇ。」 「あ!あの花!なんでここにもあるのさ!」 「さぁ、なんでだろうねぇ♪」

drawn by 里歌きじばと様(こもれび森とひだまりの里

[12年 06月 17日]